東京都大田区のまち工場|株式会社タシロイーエル
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ツールエンジニアリング2014年3月号

技能検定

技能検定は、働く人の有する技能を一定の基準で検定し、国として証明する国家検定制度で、技能者に対する社会的評価と技能・地位の向上を図ることを目的として行われている。当社の目的の一つに技能継承がある。先達者の優れた技能を如何に継承していくか迷っていたところ、得意先の方から技能検定のことを教えていただいた。技能の見える化ができ、社員の目標・モチベーションアップにつながると考え、技能検定取得を推奨できる仕組み作りに取り組んでいる。取得すると昇給する制度を作り、取得する意味を訴え続けた。また、講師を招いて社内勉強会も行っている。総勢12名の小さな会社には大きな負担である。休日に勉強会を開催、自宅で勉強するなど社員にも負担がかかる。

しかし、将来的には会社にも社員にもプラスになると信じている。

技能検定の内容が実務のプラスにならないという人もいる。確かにそのような面もあるが、長い目で見たらよい影響が出てくるはずである。当社社員が受験した数値制御旋盤2級の課題製品は、普段当社で加工している製品と比べると、比較的簡単な製品に入ると思う。技術的に古いと思われるところもあった。

しかし、時間内に加工する大切さを肌で感じられる。Gコード習得や、学科試験ではモノづくり全般が対象になっているので視野が広くなるはずだ。

最も大切なことは、受験を通して勉強する癖がつけられるということである。

恩師の会社で同時期に高卒2人が入社した。一人は帰宅後自宅で勉強するタイプ、もう一人は、夜中までゲームをするタイプだった。さて、その後どうなっていったか。前者は3年ほどでベテラン技能者の域まで到達、後者はほとんど成長が見られないとのことだった。勉強する癖をつけることがいかに大切か、このエピソードが教えてくれる。

モノづくりは次の工程のことや、その部品を組み立てる時のこと、納品に行く営業のこと、当然ながら顧客のことを考えて作業することが良い製品づくりにつながると思う。その意味でも、自分が担当する加工分野以外の勉強が重要になってくる。学科試験は視野を広げる良い機会になると思う。

当社の技能検定取得は、リーマンショックの翌年からはじめて、数値制御旋盤2級合格者4

を出すことができた。今年1月には機械検査2級を4名の社員が受験することになっている。機械検査受験のため、講師を探していたところ、東京都城南職業能力開発センターの紹介で、技能オリンピック金メダリストの坪井明先生を講師として招くことができた。博識ある講義、円熟した人柄、一流の人と触れ合えるということは大変幸運な事であった。有形無形の財産を受け継ぐチャンスになったと思う。皆良い刺激を受けていると感じられる。

また、同センターを通して、費用の1/2の助成を東京都から受けることができた。負担が少し軽減できたことは、小さな会社にはありがたい事だった。

技能検定を受験するに当たり、苦労したことが一つある。試験実施は各都道府県の職業能力開発協会が執り行うことになっている。各都道府県の協会により規定が違うのだ。東京都は社内で受験するには、受験生5名以上居ないと受験資格を得られない。小さい会社では5名の受験生を集めることは難しい。神奈川県の協会では2名で受験できる。応対も大変親切で解らないことなどよく教えてくれた。今回は、神奈川県での受験となり、数値制御旋盤は社内で実技試験を実施、機械検査の実技試験は相模原で執り行われた。社内で実技試験を行う場合は、試験官を独自に探さなければならない。受験までの段取りなど、小さな会社には負担が大きかった。特に担当した社員は、初めてのことばかりで気苦労も多かったと思う。

ベストセラー作家の百田尚樹氏は、永遠の0の執筆に当たり太平洋戦争の取材を綿密にしたとTVで語っていた。その中で、ゼロ戦の性能が途中で急速に落ちた原因が、達人レベルの旋盤職人が徴兵されたことによると話していた。部品の精度が落ちたことでゼロ戦の性能まで落ちてしまったのだ。

ものづくりは、技術と技能の融合だと思う。どちらも一流で高性能の製品が生み出される。どちらかが欠けてしまえばよい製品にはならない。現在の日本を見てみると、戦時中の過ちを繰り返す道を歩んでいるように感じる。

技能検定を受けたいという前向きな若者たちを、社会はもっと応援してもよいのではないだろうか。

平成26年1月26日この原稿を書いている、今現在、機械検査学科試験の真最中である。合格率が1530%と言われている。案外難しい試験である。

実力が出せて、よい結果につながることを祈念するばかりである。

合格したらすぐにベテランの域に到達するわけではない。日々の実務の積み重ね、勉強の積み重ねがその人の技能と人格を作り上げていくものだと思う。

現在の先端産業・IT業界はスピードが最優先、町工場のものづくりにもスピードが求められる時代である。しかし、ものづくり職人を育てるには時間がかかる。スピードが求められるのに育てるのに時間がかかる難しい職種と言える。それだけに、奥が深く面白味のある職業と言えるのではないだろうか。