東京都大田区のまち工場|株式会社タシロイーエル
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連載記事ARTICLE
ツールエンジニア2018年10月号

米中貿易戦争勃発

数年前から気になって仕方のないことがあった。それは中国の動向である。中国の様々な政策や行動が、私の目から見ても異常に映ることが多かったからだ。中国が西側のルールに、乗っ取って発展してくれるのは歓迎するが、今のままでは、共産主義独裁政権が覇権国になるか、経済破綻するかどちらかのように思えたからである。

町工場の景気は、リーマンショック時の不景気のように、全く無関係なところから突然大きな影響を受けることがある。大田区の片隅で働いていても、世界情勢は常に気になるのだ。
貿易不均衡が、長期化すると摩擦が生じる。1980年代には日米貿易摩擦が起った。日本は対応を誤って長期の円高を招いてしまい製造業に大きなダメージを与えてしまった。今回の米中貿易戦争は、その時とは次元が違うようだ。今回は摩擦でなく、文字通り戦争といえる。国防の比重が大変大きく、共産主義国家との戦いとなっている。

中国は、数十年来、米国に対して大きな黒字を出している。昨年だけで約39兆円の黒字といわれている。この黒字を使って、軍備を拡張したり、発展途上国に返せないような融資をして、土地を奪ったり、南沙諸島に軍事基地を作ったりとやりたい放題という感じがする。そして、中国が覇権国になって、新しいルールで世界をリードすると言ってしまった。
もともと、中国は現在の国際ルールを守っていない。中国自身は、貿易自由化していない。土地も自由に買えない、為替も上限下限が決まっている、資本も規制されている、西側諸国のような制度になっていない。その上技術情報の開示強制や盗用まで行っている。日本の新幹線技術は完全に盗まれてしまった。中国のステルス機が、米国のそれとそっくりという報道を見たことがある。
8月には、米国での販売に、規制をかけられる国防権限法案が、上院、下院共に2/3以上の賛成で可決された。これにより、米国企業だけでなく、米国政府と取引のある企業は、ZTEやファーウエイなどの技術の使用を禁止される。次世代携帯の規格5Gから、中国を排除することが目的のように思われる。また、この法案は台湾と国防協力をすることまで書かれている。こんなに世界が、激変するかもしれない重要法案の成立に対して、既存メディアはほとんど報道しないのはなぜだろう。
この法案は、トランプ大統領の性格に由来するものではない。現にZTEについて、トランプ大統領は罰金で処理するつもりだった。和解が成立しかけたのだが、米国議会が待ったをかけたのである。この他にも、米国の中国はずしは顕著である。人、モノ、資本に規制をかけ始めている。人は、中国人移民や留学生への規制強化、モノは関税や先の国防権限法によるもの、資本は米国の金融機関が中国に融資をしなくなっている。今年は実に9割減といわれている。中国企業による米国企業の買収も認められなくなっている。中国にも、米国債を売るという武器があるという人がある。しかし、これは全く役に立たない。1997年に成立した、IEEPA法(国際緊急経済権限法)という法律がある。敵対する国の米国債を無効にすることができるそうだ。まったく、米国は抜け目がない国である。

2016年11月にトランプ氏が大統領に当選したとき、この特殊な性格の持ち主が大統領になり、大丈夫なのだろうかと思った。米国は、イラク戦争のような理不尽なこともするが、オバマ氏や、トランプ氏を大統領にする懐の深い自浄作用のある国であると思う。トランプ大統領は、言動は破天荒のように見えるが、意外とまじめなところがあるようで、大統領選で言ったことを懸命に実行しようとしている。賛否はあるがわかりやすいし、日本にとっては良かったとも言える。トランプ大統領就任当初、ドイツのメルケル首相との握手を拒否したときは疑問に思ったが、今考えてみると戦略にのっとったものであることがわかる。ドイツは中国にべったりで経済的利益を上げている。その見返りに、軍事技術など先端技術を提供している。また、ドイツ銀行が苦境に陥ったとき、支援をしたのが、国有企業といえる海航集団でドイツ銀行の筆頭株主である。フォルクスワーゲンが排ガス不正問題で、苦境に立っていたが、いつの間にか立ち直っている。中国でトップシェアを取るくらい大量に販売しているのだ。また、ダイムラー社の筆頭株主も中国企業である。このように経済的にはドイツと中国は一蓮托生的になっている。トランプ大統領のドイツへの強硬姿勢裏には、ドイツと中国の間にくさびを打ちたい意志があるのだろう。

今年に入り、北朝鮮・金正恩委員長との歴史的会談や7月のロシア・プーチン大統領との会談は、共に和解に向けたものといえる。その一方で、イランとは核合意を破棄している。中国はイランから大量に石油を輸入している。これらの決定の裏に中国包囲網を作るという狙いが覗える。
ポンペオ国務長官が発表したインド太平洋経済ビジョンでは、自由で開かれた世界、公平で相互的貿易、解放された投資環境、透明性のある国家、基本的人権と自由を享受できる社会を目指すといっている。安倍総理が言っていることと、まったく同じような事を言い始めて、東南アジア諸国を味方につけようとしている。一連の動きを統合すると、米国は本気で中国はずしを始めたように感じる。

トランプ大統領は、レーガン元大統領を一番尊敬していると言っている。そのレーガン元大統領は、ソ連との軍拡抗争を仕掛けて、ソ連を経済的に破綻させた。今回同じように世界が激変するかもしれない。新自由主義・グローバス経済の終わり、新しい秩序が生まれてくる可能性がある。米国は40年以上膨大な貿易赤字を出し続けている。その結果、貧富の差が激しくなり、貧困層が大量に出現した。この人たちがトランプ大統領を当選させたのである。CNNなどの既存メディアが、どんなにトランプ大統領を批判しても、トランプ大統領支持率は変わらない。既存メディアは保護主義というが、よく考えてみると保護主義ではないように思う。自由貿易の根幹には、相互主義がなければ成り立たない。どちらかが一方的に勝ち続ける貿易は、成立しないことは当たり前のことである。

日本も、米国に対して貿易黒字を出し続けている、自由貿易だから勝ち続けてもよいと考える人は、自由をはき違えていると思う。相手の痛みにも配慮することが、今までの日本の最も貴い精神文化だと思う。自分勝手な人を、自由にすると破滅的になる。お互いさまがわかる人を自由にすると調和する。国家も同じである。日本にとって、日米貿易摩擦のときのような過ちが起こらないことが期待される。

トランプ大統領は、就任前から製造業の米国回帰を訴えている。製造業特に先端技術が国家にとっていかに大切かよくわかっているようだ。AI化が進めば、工場の人手が少なくなる。ということは発展途上国で、製造する意味が少なくなるのだ。これからは、製造業が国内にあることがますます重要になる時代が来ると言える。この米中貿易戦争は、米国の圧勝が予想される。ということは中国の経済に壊滅的な影響があるということになる。グローバル経済から相互主義貿易時代へ転換されるための痛みが伴いそうである。