東京都大田区のまち工場|株式会社タシロイーエル
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ツールエンジニア2016年7月号

オーニックの奇跡2 社会貢献と経済の融合

本誌、2013年5月号にオーニックの奇跡を掲載した。3年たってそのオーニックがものすごい進化を遂げている。
オーニックは放電加工を主体に金型及び精密部品の加工をしている。昭和63年に身体障がい者の社会的自立を目的として設立する。本人に働く意思と能力があっても、就労の機会に恵まれないのが現代社会である。同社は事業活動を通して障がい者に雇用の場を提供することを企業理念にしている。社員のうち半数以上が障がい者、しかも、重度障がい者も多数在籍している。
同じ部品加工業に身を置く私としては考えられない数字である。加工業者はメーカーの厳しい要求にこたえなければならない。納期・品質・価格すべてをクリアしなければ、長期にわたって仕事を受注することはできない。納期、品質、価格すべてをクリアすることは、健常者を雇用していても難しい事なのに、半数以上の社員が社会的ハンデを持っている中で、経営していることは奇跡としか言えないと思う。同社の社員は優秀な方が多く、当社からの加工の依頼にも納期・品質・価格ともに全く問題がない。ロケット部品等の精密部品の加工依頼も、納期通り高品質な製品を納品してくれるありがたい存在である。

2012年(平成24年)ころより子会社『岡山ハーモニー』をつくって、引きこもりや知的障がい者・メンタル不全の人の採用にも取り組み始めた。全く驚くばかりのチャレンジ精神である。
丸3年が過ぎた現在、50名弱の知的障がい者やひきこもり・メンタル不全者を雇用するまでになっている。その中には、字が読めない人、車いすの人もおられるという。そんな話を聞いて、『親御さんが喜んでいるでしょう』と話したところ、『時々見学に来られます。その時は、子供の働く姿を陰から見て涙しています』と、感動的なシーンを教えてくれた。親御さんの一番の心配は、自分たちがいなくなった時の子供たちの将来と言われている。働いている姿は大きな希望になるはずだ。

難波社長は、この業界は品質・価格・納期を守れば、だれが作っているかは問題にされないので、営業がやりやすいという。実際、顧客には障がい者が作業していることは、話さないことが多いという。町工場には顧客が監査に来ることがよくある。同社に監査に来て、作業しているころをみて顧客は驚嘆する。その姿を見ることが私たちの醍醐味と語っていた。

ハンデを持っている人たちが、作っていて信頼を勝ち得るには、品質は一歩も二歩も先行しなければならない、という思いで加工することを実践している。仕事の内容は、穴を磨くという専門的な加工である。鏡面加工と言い、熟練しないとよい製品ができない。どこまで磨けばよいか、熟練した職人でないと判断が付きにくい難しい作業である。当社も何回も仕事を依頼しているが、素晴らしい品質で納品されてくる。当社の顧客から、今まで他社で加工していたものより長持ちがすると言われ、当社の信頼まで高まった。当社の依頼は量産品ではない1個、2個の単品ものである。納品された製品は、熟練工のレベルを超える高品質に感動するばかりである。
同じ作業を根気よく続けられるという特性が知的障がい者にはある。その特性を活かした加工と言える。作業が好きという人が多く、昼休みなども食事が終わるとすぐに作業に取り掛かるという。人とコミュニケーションを取るより一人で作業する方がよいのだろう。

ハンデを持っている人たちに、ハイレベルな精密加工を担当させるという難事業が、なぜできるのだろうか。しかも単品ものまで。納品された品質を見ると、難波社長の発言が裏図けられる。経営者の強靭な思いを感じる。
もちろん、大変なことの方が多くあり、日夜事件が発生するそうだ。皆、健康ではないので突然休んだり、早退したりする。その度に納期管理に奔走することになる、その対応には苦労がしのばれる。また、症状が重くなり出勤できなくなり、退職せざるをえなくなる社員も出てくる。そんな社員への配慮が、会社全体の作業効率をよくすることがある。たとえば、時計を読めない人も多く、時間を社員全員が理解できるような工夫が必要になる。
仕事も皆が理解できるように日々工夫していると、健常者も含めた作業効率がよくなるという副産物が出てくる。品質へのこだわり、日々の作業の見直しなど、前向きな取り組みが黒字経営の元のようである。

障がい者を驚くほどの低賃金で雇用していると、通常は、聞くことが多い。しかし、オーニックでは、健常者と同一賃金で雇用している。行政からの賃金援助も受けていないので社員全員が、収益を上げなければ企業活動が続かないという状況で経営をしている。様々な形のハンデを持っている人たちを雇用していると、人それぞれに合わせた対策が必要になってくる。しかも町工場の経営環境は、バブル崩壊から20年以上も厳しさが続いている。そんな中でのチャレンジには、ただただ頭が下がる思いである。社会的ハンデを持っている人たちを活かす経営は、奇跡のような社会貢献であり、見事に経済と融合している。

日本には、就労困難者が2000万人以上いると言われている。このオーニックの取り組みは、多くの就労困難者の希望となるはずである。
現在の過当競争を生み出す金融資本主義から早く脱却して、渋沢栄一がいうところの道徳と経済の融合、さらに進化させた社会貢献と経済の融合を目指すことがよりよい社会を実現する近道ではないだろうか。