東京都大田区のまち工場|株式会社タシロイーエル
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ツールエンジニアリング2013年12月号

精密部品のコーデュネーター

当社は、大田区で精密部品を加工して50年になる。機械加工業は機械を操作する職人が注目されることが多い。しかし、一つの部品を完成させるには、以外と営業職が重要になってくる。この業界の営業は、モノを売るのではなく、加工技術や職人の技能を売り込むことが急所になる。ボルト一つでも、多くの工程を経なければ完成しない製品もある。旋盤加工、フライス加工、焼き入れ、研磨、表面処理、などよくあることで時には、放電加工やねじ研磨まで行うことがある。ボルトを加工するだけで57工程かかることはざらにある。

その上、旋盤は汎用旋盤か、NC旋盤か、自動盤か、フライスはフライス盤か、マシニングセンターか、NCフライスが良い時もある、焼き入れの種類も豊富にある。真空焼き入れ、ソルト焼き入れ、浸炭焼き入れ、高周波焼き入れなど、表面処理も、アルマイト、黒染め、ニッケルメッキ、カニゼンメッキ、クロームメッキなどなど多種多彩である。

表面処理も、焼き入れも1社ですべてを加工できる会社はない。5工程あれば5社の手を経なければ完成しないこともある。また、同じNC旋盤でも、工作機械メーカーの違いでできる加工品と、できない加工品がある。これはマシニングセンターでも、放電加工でも工作機械はすべて同じである。どの会社の、どの工作機械と職人を組み合わせて、一つの部品を完成させるか営業の腕の見せ所になる。

そして、各工程で様々な注意点がある。この注意点を見逃すと、どこかの工程で不具合が発生してしまう。図面上の注意点だけでなく、加工工程や、加工を行う職人の得意不得意、時には性格や体調まで考えて仕事を依頼しないと、問題が発生してしまうことがある。性格を把握して仕事を依頼することは特に難しい。納期にズボラな人、品質に甘い人、品質にこだわる人には、加工ポイントを的確に伝えないと必要以上に時間をかけて作ってしまうともある。この調整は本当に難しく毎日が勉強の連続である。調整がうまくいかないと、不具合が発生たり価格が合わなくなったりしてしまう。見積もるときは、熟練した職人が造る時間で見積もらなければ仕事は取れない。

しかい、工程が多くなると、機械の空き具合と納期の加減で、不得意な人や経験の浅い人が加工するときもある。不具合の出やすい状況になってしまう。不具合が出た場合は、特採してもらうのか、不良にして作り直すのか、顧客や加工先との調整や交渉が必要になってくる。不良・作り直しの時は、責任の分担が問題になってくる。

例えば、旋盤、マシニングセンター、焼き入れ、表面処理とあり、最後の表面処理で不良にした場合は、表面処理の会社が責任を取るのが当たり前に考えられる。しかし、町工場ではそうでもないことも多い。何故かというと表面処理の単価が安いからである。表面処理や焼き入れ工程は、最後の工程になることが多い。そして、そこまでに、一つの部品で、数万円、時には数十万円になっていることがある。表面処理の単価は、数十円から数百円くらいが多い。100円の加工単価で1万円かかっているから弁償しろとは言えないのである。工程が多ければ多いほどこの調整作業が複雑になる。営業職というより、いろいろな要素を統合したり調整したりして、物事を一つにまとめるコーデュネーターと言えると思う。

機械加工業のコーデュネーターは、加工方法や図面の知識があるだけでは成功しない。人と人とを繋ぐ人間力がカギになってくる。知識と知恵その両方に熟達しないと良い営業マンになれない。時間と忍耐のいる職種だと思う。

各言う私もまだまだ熟達のレベルには達していないが、仕事を通して学んでいきたいと思っている。

当社が加工している、ロケット部品・電子顕微鏡部品・半導体製造装置部品などの精密部品加工のコーデュネートができる営業マンは、大田区にも少なくなってきている。昨年紹介したK社長は、図面の読み書き、機械組み立て、加工プログラム、検査のノウハウなど部品加工全般に精通している稀有な人だった。多くの達人たちが、引退していくことに危機感を覚えている。K社長や先達の職人に、教えていただいたことを若い人たちにも伝えていきたい。そして、末永く難しい精密部品加工のコーデュネートが、できる会社にしていきたいと思っている。

大田区には、3000社以上の専業町工場が林立している世界でも稀有な地域だと思う。大田区の町工場が無くなってしまって、すべて自分のところで加工しようとすれば、膨大な設備投資と人件費がかかることは明白である。

この20年間多くの町工場が淘汰されてしまったが、今残っている町工場は、腕は一流のところばかりである。宇宙・防衛産業・医療機器や研究開発など、外国で作ることが国益や会社のためにならないものがある。大田区町工場は、まだまだ、日本のためにも必要な存在だと思う。バブル崩壊から20年以上、苦難続きの町工場に光あれ。