なんて就労困難者が多いのだ
日本経済の父と言われている渋沢榮一は、経済と道徳の融合を提唱し実践していた。現在の日本は、金融資本主義の仕組みの中多くの企業が道徳より利益優先になってしまったようだ。特に雇用面で利益優先が顕著に表れていると思う。
そんな中、久しぶりに感動する本に出会った。それは、渡邉幸義氏の『雇用創造革命』という本である。渡邉氏は、2000年にITネットワークのエンジニアを派遣する会社を4人で立ち上げる。そして、20大雇用を掲げ、障がい者・メンタル不全・ニート・フリーター・ワーキングプア・シニア・引きこもり・アルコール中毒者など、就労困難な人を積極的に採用して黒字の会社を経営している。この本で驚いたことは、やり方次第で障がい者を雇用しても黒字にできることと、あまりにも就労困難者が多いという二つで、こんなにも働けない人が多いことを初めて知った。
障害者白書によると、国民の約5.9%の744万人が障がい者手帳を持っている。さらに、障害者手帳を持っていない障がい者や鬱などのメンタル不全者・引きこもりなどを加えると、働くことが困難な人が2000万人と言われている。
国民の6人に1人が、就労困難者という現実があるのに、問題提起する人はあまり見かけない。渡邉氏の会社では、社員2000人に対して800人以上が就労困難者だという。就労困難と思われる方でも、その人に合った適格な配慮をして、働けるようにできる仕組みを確立しているようだ。就労困難者を雇用することは、難しい点も多くあり、配慮しすぎると健常者の負担が多くなり、不満や争い事が増えると思う。困難なことがたくさんあるはずだ。渡邉氏の会社でも、重度障がい者や知的障がい者の雇用についてのノウハウができるまでは、人にはわからないご苦労困難があったことが行間から垣間見られた。当社にも、シニアと神経症、子育て中の女性が働いている。各自それぞれに、多少の配慮をすることで長期に勤めていただいている。まだ、渡辺氏の会社のように安定はしていないが、お互い様の精神が浸透した会社を目指している。
働けない人は、税金で生活を保障することになる。この働けない人が給料を貰い納税すると国力は大いに上がり、希望ある安定した社会ができるのではないだろうか。少子高齢化の時代、高齢者や女性の雇用拡大が叫ばれているが、他の就労困難者にも目を向けるべきではないかと思った。
渡邉氏の別の著書の中に、『一人一秒のプレゼント』という実話が載っていた。<ある小学校での話で、足の悪い男の子がいました。右足が不自由でした。でも、明るい性格で友達とサッカーをしたり、体育の授業にも参加する頑張り屋でした。運動会が近づいて、学級対抗リレーの練習に熱を入れ始めた頃、その問題は起こりました。クラスの一部の生徒が、足の悪い奴がいるから勝てないと言っているのを偶然聞いてしまった。足の悪い男の子は、リレーに出ないと先生に訴えた。先生は、その日の学級会でその話をします。足の悪い男の子は、いたたまれなくなり、机をたたいて、「もういいです。僕がちゃんと走れないから悪いんだから」と言う。みんな下を向いて沈黙が続きました。すると一人の男の子が「走れよ。クラスのみんなが一人一秒速く走れば、38人で38秒速く走れる。そしたら勝てるよ」と発言した。その日からクラス皆で、遅くまでバトンタッチや走る練習を重ね、いよいよ運動会の日、足の悪い子も皆の声援を受け完走した。他のクラスはバトンを落としたり、転倒する子が出たりして、足の悪い男の子のいるクラスが本当に優勝したのです。>
現代の金融資本主義は、弱い人や能力に劣ると思われる人は、排除して利益を優先してしまう風潮がある。しかし、渡邉氏は劣っていると思われる人も、工夫次第で十分に戦力になることを実証している。就労困難者を雇用するに当たり、雇い入れてから、その人の特性に合った仕事を創造していくということを理念にしている。リストラや派遣労働者を多用する現代の大企業の真逆の経営と言えるだろう。渡邉氏の会社は、エンジニアを派遣する仕事を中心にしている。しかし、すべて自社の正社員として雇用し教育しているようだ。
有名テーマパークのホームページを見ると、正社員が1割、あとは派遣社員、契約社員、アルバイト、パートであることが、堂々と載っていた。私の知人の子供が、学校を卒業してそのテーマパークに就職した。その時は良い会社に入れてよかったですねと声をかけたことを覚えている。ところが、契約社員か派遣社員だったようで、数年で辞めていました。
夢の国で働いても雇用が安定しなければ、働く人を使い捨てにしていると、言わざるをえないのではないかと思う。働く人が幸せになり、お客も喜び、会社も収益を上げる三方よしができなければ、いくら黒字になっても社会的責任を果たした、とは言えない。雇用が安定し、成長できる職場がなければ幸福な人生を歩むことはできない。社員一人一人の成長があり強い会社ができる。また、強い会社が集まって、強い国になると考えられる。過当競争が続出する今の金融資本主義は、明らかに行き過ぎている。人を幸せにしないシステムと言えるだろう。渡邉氏を見ると、社会貢献とビジネスを両立できることがわかる。
『もったいない』、『おもてなし』、と世界中ではやった。これからは、社会貢献とビジネスの融合が世界に発信されることを願うばかりだ。
参考文献
著者渡邉幸義 ダイヤモンド社 雇用創造革命
致知出版 美点凝視の経営