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ツールエンジニア2016年3月号

金融資本主義から脱却せよ

本当に腹の立つこと、やりきれないことが多い時代になった。昨年も、様々な事件や事故が発生して人々を驚かせた。特に、シリア、ISの問題は400年も前の戦国時代に遡ったような混迷状態になって、出口は見えなくなっている。世界情勢を見ると、日本はなんて平和な国なのだろうと、改めて気付かされる。今年も、多くの問題に直面しながら、生活して行くことになるだろう。

欧州の優等生と言われた、ドイツ金融にも危機が忍び寄っている。ギリシャへの融資国であるドイツにとって、ギリシャ金融危機はここ数年大きな懸念材料だった。其処に中東やアフリカからの難民問題、テロ問題、中国の景気減速による輸出の後退、さらに、フォルクスワーゲンの不正ディーゼルエンジン問題が発生した。景気が後退し株価が下がり、レバレッジ(証拠金の数倍から数十倍の金額で取引できること)をかけた金融商品の焦げ付きが懸念されるようになってきた。一説には、ドイツ金融界の金融取引金額は8710兆円と言われている。実にドイツGDP20倍にもなる。実体経済の何十倍もの、投機マネーが世界中に流通する現在は、産業資本主義を遥かに超える超金融資本主義と言えるだろう。金融資本主義の根底には、金儲けのためなら何でも許されるという、拝金思想があることは間違いない。

そんな投機マネーに、実体経済が翻弄され腹立たしい限りである。金融資本主義は実体経済と関係のないところで破綻をする。無謀な融資を続けたサブプライムローンの破綻から、リーマンショックが起こった。日本も大変な不況になり、我々町工場も大きな打撃があった。金融資本主義になってしまった原因は、1980年代のロナルド・レーガン元大統領が始まりといわれている。新自由主義の思想である、市場原理主義、経済・貿易の自由、民営化、規制緩和など小さな政府を政策として導入し、福祉予算の削減、企業減税、規制緩和などの政策を実施した。サッチャー元首相、中曽根元首相がそれに続き、現在も金融資本主義、市場原理主義が継続している。短期的には効果があったように見受けるが、今、現在の世界各国での貧富の格差拡大や、その弊害を見ると新自由主義の考えは、大きな欠点があることが明らかになってきた。人類を不幸にするシステムと言わざる負えない。

私も、自由でありたいという気持ちが強くありサラリーマンは、勤まらず町工場をやっている。しかし、自由には責任が伴うことを忘れてはならない。自制心のない人や自己愛の強い人を自由にしてしまうと、多くの人に迷惑がかかることになる。それはリーマンショックがよく物語っている。自由にする前に人間性を育むことが重要になる。ある経営コンサルタントが、社会人として一人前になる前に自由にすると、わがままになり、会社の和を乱すと話していた。小さな会社でも国家でも同じことが言えると思う。一定レベルの人間性が、備わってから自由にするべきである。

金融資本主義の最大の問題は、貧富の格差が拡大するということだろう。貧困の実態は驚くべきデータが出ている。アメリカでは10%の人がアメリカの資産の70%を所持、40%の人が25%、50%の人が、わずか5%の資産しか持っていないという格差になっている。日本も格差がものすごく拡大している。日本の貧困率は、メキシコ、トルコ、アメリカについで世界4位、韓国は6位。2012年には16.1%、国民の6人に1人が貧困に直面している。

OECDの試算を基にすると日本では、単身世帯で年収122万円以下を貧困と定義される。足立区では、就学援助を必要としている児童が46.6%もいる。3食、食べられない子供に朝食支援をしている学校もある。足立区は少し多いが全国的にみると15%の児童が就学支援を受けている。母子家庭の深刻な貧困問題が影響していると思われる。児童だけではない、生活保護基準相当で暮らしている、下流老人と呼ばれるお年寄りが、推定600万~700万人と言われている。貧富の格差は弱者を直撃する。ワーキングプアも問題である。国税庁の統計調査によると、正規従業員の平均年収は476万円。非正規従業員では168万円とある。貧困一歩手前の状態といえる。非正規従業員は就労人口の37.4%になっている。国民の3人に1人以上が非正規従業員という状態だ。日本の悪いところは、1度非正規になってしまうと、正規社員に戻りにくいという社会情勢がある。転職すればするほど就職条件が悪くなる。敗者復活しにくい社会構造と言える。非正規になってしまうと、スキルアップのチャンスが少なくなり、何年働いても収入がアップしない現実が待ち受けることになる。

未婚男性が非正規になると既婚率が激減してしまう。これでは、将来ますます下流老人が増え、少子化は改善されないことは明白である。一方大企業は莫大な内部留保金をため込んでいる。リーマンショック前は、200兆円だった内部留保金が、不況が続く中354兆円になった。バランスが崩れていることは、誰も異存がないだろう。高齢化が進む中、家計の貯蓄率は減少している。政府は公共事業や社会保障で支出が増え続けている。これらのお金は海外に逃げたわけではない、ほぼすべてが企業に移動したといえる、企業の保守的経営により国内に還流しないことが大きな問題だ。こんなバランスの崩れた社会を作り出す、金融資本主義から早く脱却すべきではないだろうか。お金を貯めこむ企業が悪いというより、社会の仕組みに問題があると思う。金融資本主義は、長期的に考えた経営ができないシステムと言える。経済は、経世済民 経済によって民を救う、世のため人のためが語源になっている。これが経済の本質であり、現代の鉄火場と化した金融界は、経済の原則からかけ離れている。

出光興産の創業者、出光佐三は『日本人に帰れ、日本民族のみが、世界平和人類の福祉を打ち立てる資質を持っている』『お互い様は、互譲互助・無我無私・義理人情から出ている。お互いの為に尽くすというのが日本の道徳の根源』と言っていた。日本の道徳観を練り上げて、世界に受け入れられる道徳と経済の融合した新資本主義を作り、世界に発信することで、初めて世界平和が実現されると思う。お互い様がわかる民族である日本人が、世界の平和・人類の福祉に貢献できるのではないだろうか。日本には良い事例がある。渋沢栄一が唱えた、道徳と経済の融合という、古くて新しい資本主義思想をもっと研究すれば、答えが出てくるはずだ。新年号で紹介した、障がい者雇用の会社や2013年5月号で紹介したオーニックの経営は、道徳経済の良い事例と思う。新しい資本主義は、社会貢献と経済の融合を目指すべきだ。争いにエネルギーを費やすことをやめて、少し能力が劣ると思われる人でも、生活が成り立つよう考えることに、力を注げる社会になってほしいものである。